HeartBreakerU  5







「ん……」
千鶴は寝返りをうとうとして何かに遮られ、目を覚ました。千鶴の体にあたったものはソファの背もたれの部分。ぱちぱちと何度か瞬きをして、千鶴は起き上がる。

あれ、ここ……

沖田の病室だ。千鶴は沖田の看病をしていて……そこまで考えて、千鶴は沖田のベッドの方を見る。
そこは読書灯だけがぽつんと灯っているが、ベッドには沖田の姿はなかった。
壁の時計はそろそろ深夜をまわるころ。
沖田はどこに行ったのだろう? 千鶴はかけられていた毛布を持ち上げて、ソファから降りた。
部屋を見渡し、ベッドの傍まで行く。トイレにでも行っているのかと千鶴が視線を外したとき、ベッドサイドテーブルの端で何かがきらりと光った。
「何……?」
千鶴が小さく呟いてそれを手に取り、読書灯にかざす。
「……瓶? なんの瓶……?」
厚手のガラスでできた、小さな瓶。中に何か入っていたようだが、栓は抜けて空の状態で転がっていた。
「……」
余りにも静かな部屋。
静かすぎる。
でも廊下では何か…気配というか空気が動く音が聞こえる気がする。……何かがおかしい。
何かが歪んでしまった気がして、千鶴はその瓶を見つめた。冷たい手で心臓をつままれるような、やり直しのきかない恐怖が千鶴を襲う。
「沖田さん……沖田さんは?」
何かあったのだろうか。
何もあるはずはないのに何故こんなにも胸がさわぐのだろう。何かが起こったのだ。何かよくないことが。
千鶴は震える手でドアを開けた。
開ける瞬間、何かおかしいと感じた理由がわかった。病院の廊下の電気は消されることなく一晩中ついており、扉についている小さな曇りガラスからその灯りが見えるのが普通なのに、その時は見えなかった。
真っ暗だったのだ。
扉を開けた千鶴は、真っ暗な廊下に息を飲んだ。廊下の壁にある非常扉を示す緑と白の灯りだけが、点々と暗闇の中に浮かんでいる。

……停電? ううん、部屋の中の電気はついてた……

おかしいのは暗闇だけではない。暗闇の中に、何かの気配がするのだ。それにかすかにあえぐような息遣い。そして……

この匂いは何?

生臭いざらついた匂いが漂ってくる。
動物的な本能が、千鶴に前へ進むなと命令していた。前には危険がある。命を脅かすほどの危険が。
「……」
千鶴は震える手を思いっきり握った。
沖田は病室にいなかった。もしかしたらこの暗闇の先で危険な目にあっているのかもしれない。今行かなかったことを、千鶴は一生後悔することになるかもしれない。少し行った角を曲がればエレベーターホールがある。エレベータで下に降りれば、常時誰かいるはずのナースステーションだ。千鶴は恐怖による息苦しさで浅い呼吸を繰り返しながら、一歩一歩前へと進んだ。
手探りで廊下を進みあと少しで角というところで、千鶴は横に何か黒い塊があるのに気が付いた。病院の廊下なのだから通常はもちろん何も置いて無く綺麗に掃除されているのに、それは廊下の真ん中にうずくまっている。ゴミなどではなく、かなりの大きさだ。……そう、本当に人間が横たわっているような……
「……」
千鶴の心臓が追い立てるように早く打つ。
暗くてよくわからないその物体を慎重に避けて、千鶴は角を曲がった。
そして千鶴は茫然と立ちすくんだ。

ぼんやりとした非常灯の灯りの中に、銀色の悪魔が立っていた。
手には血の滴るナイフを持ち、暗闇の中で背筋を伸ばして。見慣れた肩のラインに広い背中。重心を少し右側に寄せるような立ち方。
千鶴は頭のどこかで、それをきれいだと感じた。
恐ろしいのに美しい。
髪は銀色に美しく輝き、赤い瞳が暗闇の中で光っている。髪の右側半分にべっとりと血らしきものがついていた。それはすっきりした頬のラインを辿り、顎の先から滴り落ちている。

何かが暗闇から飛び出し、次の瞬間、銀色の悪魔は視界から消えた。千鶴が声を上げる間もなく、今度は別の銀色の小さな光がきらめいて、何かを切り裂くような水っぽい音をたてた。
その音に重なり、それまで暗闇だと思っていた千鶴の右側で呟きのような空気が抜ける音がもれ、ゆっくりと暗闇が塊となり倒れていく。その動きにつれて、先程千鶴が感じた生臭い匂いがさらに強くなった。
これは血の匂いだ。
「千鶴ちゃん伏せて」
囁くような沖田の声と同時に、千鶴の手が引っ張られ前のめりに倒れる。暖かい胸に抱きとめられた時、先ほどまで千鶴がいた場所にナイフが銀色にきらめきながら飛んでいく。
「ぐうっ」という変な声が聞こえた。
「きゃ…!」
千鶴が驚いて開いた口は、後ろから出てきた大きな手にふさがれる。
「静かに。あっちの隅っこに隠れてて」
冷たい声が耳元で聞こえる。
「沖田さん……」
茫然としている千鶴を軽く押して追いやると、沖田はナイフを投げて動きを止めた男の方へと歩み寄った。
「っ!」
千鶴が息をのむ。沖田の投げたナイフが、千鶴の後ろにいた男の肩に深々とささっていた。
男は力の入らない手で銃を構えようとしていたが、沖田は無造作にその肩のナイフを抜き、その男が痛みに声を上げる前に、首筋にナイフを横に払うようにして切りつけた。
ブシッという水音がして、男の首から血が大量に吹き出すのが千鶴の目にも見えた。男の驚いた表情も。
「くそっ…!!」
小さな声とカチッという音が今度はエレベーターホールの反対側から聞こえてきた。千鶴がその声の方へと振り向いた時にはもう、沖田はナイフを投げていた。
ナイフはそのもう一人の男の喉に刺さり、男は声も出せずに倒れこむ。沖田は倒れた男の傍まで歩いて行くと、男ののどに刺さっているナイフを抜いた。
非常灯に照らされて、沖田の横顔が闇に浮かび上がる。
銀色の前髪がすっきりした額と涼やかな眉にかかる。しかしその顔は血で激しく汚れていた。右腕と右手も、ナイフまで血で染まっている。
しかし沖田の表情は、背筋が寒くなるくらい平静だった。人を……多分四人……いやそれとも五人? 殺した後とはとても見えない。精神の高ぶりも恐怖も興奮も何もない表情。目だけが赤く暗闇で光っている。
「お、沖田さん……」
千鶴の声は震えていた。血まみれの銀髪に赤い瞳。
過去の記憶が蘇る。
最初に見たのは沖田にさらわれた最初の隠れ家から逃げるとき、沖田に銃で撃たれても何度も立ち上がる銀色の化物を見た。次は綱道コーポレーションで。綱道と一緒に追いかけられた。そしてこの時間の流れの中で、炎に包まれた山荘から羅刹になった沖田に助け出された記憶。

まさか……どうして……

時間の流れを変えたおかげで、羅刹だった沖田も人間に戻ったと言っていたのに。
あれはウソだったのだろうか? いや、一緒に暮らしてきたのだから、血の発作も朝夕逆転をごまかせない。沖田は確かに人間にもどっていた。なのに何故、今、銀髪に赤い目をしているのか?
沖田はちらりと感情のこもらない瞳で千鶴を見た。目があった千鶴は、思わずビクリと背筋を伸ばす。
この冷たい瞳は前にも見たことがある。そう、未来から来たばかりの頃。千鶴を殺すと言っていたころ。
千鶴は固まったまま、沖田が床に横たわった遺体を確認するのを見ていた。本当に死んだのかを確かめているのだ。「お、沖田さん……もう……」
もういいじゃないですか、例え生きていてももう私たちを襲ってくるとは思えません。これだけの血の海なのに、再び立ち上がり、銀髪で赤い目の鬼に立ち向かえる人が……たとえ羅刹でも……いるとは思えない。
その時、死体だと思っていた体の一つに沖田が反応した。
「……生きてるの?」
艶やかな声。沖田は優しいともいえる口調でそう聞いた。千鶴はその声を聞いて、ゾクリと体を震わせる。こんな時にこんな場所で……と思うものの、沖田のその言葉は千鶴との親密な時、ベッドの中で甘い溜息と共に呟かれる口調を千鶴に思い出させた。
その倒れていた男は、沖田の言葉を認識する意識はないようで、「う……」とうめき声をあげる。
千鶴が目を見開いて見ている中で、沖田はナイフを右手から左手、左手から右手に持ち替える。血まみれの自分の手とナイフを見比べて、沖田はナイフの刃をパチンとしまうと、ポケットにしまった。
千鶴がホッとして沖田の方に歩き寄ろうとしたとき、沖田はジーンズの後ろ側から銃を取り出した。そしてエレベーターホールにあったリネン用のワゴンから枕をひょいととりあげると、その男の頭に枕置いて枕越しに銃を構える。知識のない千鶴でもわかる。この枕は銃の音を消す消音機の代わりだ。
「お、沖田さん…!やめてください、もう十分です……!」
千鶴が思わず沖田を止めると、沖田はこちらを見た。
その赤い瞳には何の感情も込められていない。
「……これが僕のやるべきことだよ」
沖田は静かにそう言うと、躊躇なく千鶴の目の前で引き金を引いた。
ボスッというくぐもった音と共に、中の綿が飛び散り、男の頭も飛び散る。
「……!」
千鶴は目を背けて唇を噛んだ。
暗いエレベータホールに、飛び散った綿が雪のように舞った。

ナースステーションで机の上につっぷして眠らされているナース達を横目に、千鶴と沖田は病院を抜け出した。
途中で羅刹から人間に変化した沖田は、人気のない空き地で千鶴が買って来たペットボトルの水で髪や手についた血を洗い流す。
千鶴は、沖田が病院を出て以来ずっと目を合わそうとしないことに気がついていた。これまで会話もほとんどなく、なんとなく気詰まりに思いながら千鶴は聞いた。
「……大丈夫ですか? 怪我は……。どこか痛いとか、具合が悪いとか……」
沖田は千鶴の質問が聞こえているのかいないのか、無言で水を顔にかけ洗っている。顔を洗い終り、千鶴が差し出したタオルで顔を拭いて、沖田はようやく千鶴の顔を見た。そして皮肉な表情でうっすらと笑う。
「――血が欲しいとか?」
「……」
自嘲するような沖田の言い方に、千鶴は何も言えなくなってしまった。
何故、いつ、変若水を飲んだのか? どこで変若水を飲んだのか? どうやって手に入れたの? それともずっと羅刹だったことを隠していたの? どうして? それに入院していた原因……タイムトラベルの後遺症は? 長時間起きているのも辛そうな状態だったのに、羅刹を含め人間を一人で殺し、今こうして逃げている。
そして、平穏な日々にすっかり忘れていたが、沖田は……彼は暗殺者として千鶴の前に来たのだ。情け容赦なく、何の感傷もなく、目的遂行の為だけに人を殺すために。
千鶴のことは殺すのではなく守ることに変化したけれども、彼の本質は変わっていない。先程病院の廊下でまざまざとそれを見せつけられて、千鶴はあらためて沖田の本質を思い出す。
そして今の彼の皮肉な態度。
いろんな思いが渦巻いて混乱して、千鶴は何も言えない。
そんな千鶴を、沖田は濡れた前髪をかき上げながら横目で見た。
「……君が僕ともう一緒にいたくないのだとしても、それは別に構わない。口をきかなくても手も触れなくても別にいいよ。でも僕は君の傍を離れないよ。君を守るのは僕の勝手だからね」
冷たい瞳に冷たい言葉。
しかし千鶴は彼の言葉の中身に驚いて、冷たさは感じている余裕はなかった。目を見開いて彼を見上げる。
「一緒にいたくないって……私そんなこと……」
「千鶴ちゃんは自分の顔を見れないからね。鏡でも見てみればよかったのに。羅刹になって人を殺してる僕を、まるでバケモノを見るような目で見てたよ」
「お、沖田さん……」
「だから、別にいいんだ。もう僕に触れられたくないのならそれはそれでかまわない。でも、薫のいう『組織』が……」
「沖田さん!」
千鶴は沖田の言葉をさえぎった。言葉を止めてこちらを見た彼の瞳を見て、千鶴は『ああ、やっぱり』と思う。
傷つかないようにいからせた肩。張り巡らせたバリケード。
自分の態度がそんなに彼を傷つけてしまったのかと、千鶴は胸が痛んだ。手を延ばして彼に触れようとすると、沖田はびくりと体を震わせて後ろに下がる。
千鶴はかまわず一歩進み、両手を伸ばして沖田の胸にすがりつくように抱きついた。
抱き返してもこない硬いままの彼に構わず、千鶴は頬を彼の胸にあてる。
「……濡れるよ」
血を洗い流したために、沖田の着ていたシャツは水をかぶったように濡れていた。千鶴は『かまわない』というように、彼の胸に顔をうずめたまま頭を小さく横に振った。彼を傷つけるくらいなら濡れることくらいなんだというのだ。
「……バケモノだなんて思っていません。もう触れたくないとか口をききたくないなんて……。沖田さんが羅刹になったのも、人を殺すのも、全部私のためだってわかってます。さっきは驚いたのと、それと私が……私のせいで沖田さんにまた迷惑を……」
沖田は溜息をついて、少し躊躇った後千鶴の肩に腕を回し、頭に顎を乗せた。
「……変若水を飲むって決めたのは僕で、僕は後悔していないんだ。だから君が気に病むことはないんだよ」
まただ……と千鶴の瞳に涙がにじむ。
どうしてこんなに軽々と、千鶴なんかのために自分を犠牲にしてくれるのか。彼に自分の世界を捨てさせ、羅刹にし、綱道から守ってもらった上に、今度は薫とその組織からも追われて……
血を吐いて、怪我をして、傷ついて、血まみれになって。それでも彼は当然のように千鶴を守ってくれる。そしてそれを全て自分の……沖田自身の希望なのだと言って。
「……私は……私は沖田さんのために何が出来ますか?」
彼の胸に顔をうずめて、千鶴は声を絞り出す。沖田は彼女を愛おしげに抱きしめると言った。
「何も。……こうして傍にいてくれるだけで充分だよ」

血で染まったナイロンのパーカーは脱いで、沖田と千鶴は夜の国道を手をつないで歩いた。
途中のコンビニで軽食と水を買い、再び歩く。
病院の惨状はどうなっているのかわからない。が、パトカーや救急車が走り回ったりはしておらず、いつもの平穏な夜の街であることから考えると、きっと薫の『組織』がなんらかの手をうったのだろう。
そのせいか千鶴と沖田の二人が歩いているのも、仲のいいカップルがのんびりと散歩しているようにしか見えなかった。だがそのカップルの男の持ち物は、ジーンズの腰、Tシャツの下に銃が一丁、ナイフが一つ。ポケットに代えの弾薬という、殺伐としたものなのだが。
「沖田さんの体の調子はどうなんですか? タイムトラベルの後遺症は……」
千鶴が寝ている間にあったという沖田と薫の会話を聞いて、千鶴は気になっていたことを質問した。
入院していたときの沖田は、少し立って動くのだけでもまだつらそうですぐ疲れてしまっていた。なのに今は、あれだけの戦闘を行い、延々と二時間歩き続けているのにとても元気そうだ。
「実際、調子はすごくいいよ。タイムトラベルの後遺症って徐々に体力を削ってく類だったみたいで、自分でも気づかなかったけどかなり弱ってたみたいだね。今はとても体が軽い」
「どこか痛い所とかはなかったんですか?」
沖田は自分の脇腹に手をあてる。
「……あったんだけどね。今はそれももう痛くない。この世界にタイムトリップしたときも羅刹になって、で、こういう感じだったんだ。あの時は時間の流れの修復力のせいで羅刹でいる時間が短かった。そのせいでタイムトラベルの負荷が治りきらなかったんだろうね。今回変若水を飲んだおかげで、多分、このタイムトラベルの後遺症の方は完治するんじゃないかと思うよ」
「そうなんですか……よかった……」
沖田は決して弱音は吐かなかったが、入院中の体力の落ち方はかなりきつそうだったのだ。時々お腹を押さえて痛みを我慢している様子も、千鶴は気づいていた。
千鶴を『血のマリア』にさせないために沖田はタイムトラベルをして、そのせいで体を壊した。しかしそれを治したのが変若水だというのは皮肉だが。
薫が言っていた、羅刹になって精神を保っていられるのが長くて三年ということ。そして吸血衝動。
どうしようもない暗い未来しかないけれど、沖田のタイムトラベルの後遺症が治るのはその中で唯一の明るい話題だ。
千鶴の暗い顔を覗き込んで、沖田は千鶴が何を考えているか察したようだ。
「タイムトラベルの後遺症は治ったけど、その他は薫の言う通りなんだよね。悔しいけど。僕が変若水を飲んでも飲まなくても、幸せな未来はないんだ。唯一考えられる突破口は、『変若水を飲んで三年以内に組織を壊滅状態にする』ことぐらいかなって」
「……」
淡々と自分自身の命を絶つ話をしている沖田。彼の瞳は穏やかな色をしていた。
ためらいも恐怖も葛藤もなにもない、澄んだ緑の瞳。全てをありのままに受け入れて、滅び行くさだめを理解しながら何も恨まない。千鶴のことさえも。
掴まえたと思ってもいつもするりとすり抜けて、少し遠くで微笑んでいる。
千鶴は何も言えなくて俯いた。
沖田の言うことはわかる。沖田が今言った突破口は、残されたルートの中で唯一千鶴が無事でいられるルートだ。それはわかるけれど、そのルートでも沖田は三年後には居なくなってしまう。二人での幸せな未来は無いのだ。そして彼がいなければ、千鶴には『幸せな未来』などない。

そんな未来しかないのなら、いっそのこと。
まだ理性が残っていて、一緒にいられる今のうちに……幸せなうちに一緒に死んでしまえれば……

その思いはあまりにも魅惑的で抗いがたくて、千鶴は首を横に振った。
沖田の運命を変えて、世界の運命まで変えたのは、こんなところで自ら死を選ぶためじゃない。
沖田は以前千鶴に、『覚悟が決まっていないのは君の方だ』と言った。沖田を羅刹にしてしまう罪悪感を抱えて生きろと。羅刹になった沖田の運命を背負って欲しいと。
安易に、自分さえ死ねば、と言う千鶴を諌めてくれたのだ。
今もそうだ。あきらめてはいけない。これまでの人生を全て捨てて千鶴にかけてくれた沖田の為にも、千鶴は『二人での幸せな未来』を、迷って悩んで泣きながらも探さなくてはいけないのだ。
沖田は先程『傍にいてくれるだけでいい』と言ってくれたが、血を流して羅刹になって、ボロボロになっても千鶴を守ってくれる沖田のために、千鶴ができるのはきっと運命を諦めないことだけだろう。
今は二人の幸せな未来へ続くルートは見つけられていない。でも沖田が変若水を飲んだおかげで時間的な猶予ができたはず。
必ず見つけてみせる。
千鶴は隣を歩く沖田の手を、自らそっと握った。沖田が「ん?」とこちらを見るのに、にっこりと笑顔を返す。

「一緒に……一緒に探しましょう。二人の幸せな未来を」

 

                             

                   


6へ続く



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